2024年8月号(高1)カレーやシチューの作り置きには要注意
※解説やもっと知ってほしいことなどは、ドラッグレターの下に書いてあります。
解説やもっと知ってほしいことなど
カレーやシチューの作り置きで起きる食中毒
前の日に作り置きした煮込み料理のカレーやシチューは、作りたてのときよりも味がよく染みていたり、まろやかさが出て美味しくなるなどと言われています。
そんな煮込み料理の作り置きですが、一度火を通してある(加熱してある)ため雑菌が死滅しているので食中毒の心配はないと思っていませんか?
カレーやシチューの作り置きによる食中毒は、ウェルシュ菌が原因となって引き起こされます。
ウェルシュ菌の特徴を知ると、一度加熱したからといって安心できないことが分かります。
ウェルシュ菌とは
下水、河川、海、土壌など自然界のほか、人や動物の大腸内など、酸素の少ないところに存在している細菌です。
酸素の少ないところで増える(増殖する)ことができ、増殖可能な温度は12~50℃です。
その中でも43~47℃が最も増殖する温度であり、45℃では10分のサイクルで増殖していきます。(10分ごとに菌の数が倍になるということです)
12℃未満や50℃を超える温度では増殖しなくなり、自身の体が通常の状態では75℃以上になると死滅してしまいます。
しかし、ウェルシュ菌は温度が低くなったり高くなると自身の体を守るために芽胞(がほう)を作り、通常の状態から殻にこもった状態に変化してしまうのです。
芽胞を作ると100℃で1時間以上の加熱にも耐えられるようになるため、酸素の少ない煮込み料理の中で生き残ってしまいます。
芽胞を作ると自分の身を守ることができる一方、増殖はできなくなります。
ウェルシュ菌による食中毒
ウェルシュ菌による食中毒はエンテロトキシンという毒素によって引き起こされます。
エンテロトキシンはウェルシュ菌が通常状態から芽胞を作るときに産生され、60℃で10分間の加熱により不活化される(毒性がなくなる)という特徴があります。
ウェルシュ菌は食肉や魚介類などに含まれていることが多く、これらの食材を煮込んで75℃以上になると死滅しますが、一部は死滅する前に芽胞を作って鍋の中に残ります。
その際に産生されたエンテロトキシンは調理中の加熱で不活化されるため、調理直後のカレーやシチューではウェルシュ菌による食中毒は起こりません。
しかし、作り置きした(食べきらなかった)カレーやシチューでは、保存状態や再加熱の状況によって食中毒を引き起こすことがあります。
調理後の保存中にカレーやシチューの内部温度が低下して約55℃になると、芽胞を作って生き残っていたウェルシュ菌が通常状態に戻り、12~50℃の間であれば増殖していきます。
そして再加熱する時に加熱に時間をかけたり、75℃以上に加熱されなかった場合、たくさん増殖したウェルシュ菌をカレーやシチューと一緒に体内に取り込むことになります。
体内に取り込まれた大量のウェルシュ菌は小腸内で再び芽胞を作り、その時に大量のエンテロトキシンが産生されます。
体温ではエンテロトキシンは不活化されないため、食中毒が起こってしまうのです。
ウェルシュ菌が1 gあたり10万個以上に増殖した食品を摂取すると食中毒が起こると言われています。
食中毒の主な症状は腹痛と下痢で、ウェルシュ菌を体内に取り込んでから6~18時間(平均10時間)後に見られ、24時間以降はほとんど見られません。
下痢の回数は1日1~3回程度、便の状態は水様または軟便です。発熱や嘔吐はほとんど見られません。
普段健康な人であれば重症化することはまれで、1~2日で回復し、命に関わることはありません。
しかし、持病がある人、特に子供や高齢者では重症化することがありますので、家庭で起こりやすい食中毒の一つであることから注意が必要です。
ウェルシュ菌による食中毒が起こらないようにするために、気をつけたい3つのポイントと対策
通常状態のウェルシュ菌をできるだけ増殖させないようにすること、増殖してしまったウェルシュ菌を死滅させること、産生されたエンテロトキシンを不活化させるために、しっかり加熱することが重要です。
<気をつけたい3つのポイントと対策>
①室温で放置しない
調理後、直ぐに食べない、あるいは食べきらない場合は、カレーやシチューの内部温度が12~50℃になりやすい室温で2時間以上、放置しないこと。
43~47℃では、1個のウェルシュ菌が約3時間で食中毒を起こす菌量まで増殖します!
②直ぐに冷やす
カレーやシチューの内部温度が1時間以内に10℃以下になるよう、冷蔵庫に入れて保存すること。
保存の際は、できるだけ早く内部温度が下がるように鍋ごとではなく、小分け(タッパーなど平たい形状が望ましい)にして冷蔵庫に入れる。
冷蔵保存しても、冷蔵庫に入れてから2~3日以内に食べきるようにする。
③再加熱は手早く行い、75℃以上までしっかり加熱する
再加熱する際は、必要な分だけ冷蔵庫から取り出して加熱しましょう。
再加熱の時、カレーやシチューの内部温度が12~50℃の間を通り抜けていきます。
ゆっくり加熱していると、12~50℃の間でウェルシュ菌は芽胞状態から通常状態に戻り増殖を始めてしまいます。
そのため、かき混ぜながら手早く75℃以上までしっかり加熱し、通常状態のウェルシュ菌をできるだけ増殖させないようにする、増殖してしまったウェルシュ菌を死滅させる、一部のウェルシュ菌が芽胞を作った際に産生されるエンテロトキシンを不活化させることが必要です。
参考:
・厚生労働省HP「大量調理施設衛生管理マニュアル」
・国立感染研究所HP「ウェルシュ菌感染症とは」
・農林水産省HP「煮込み料理を楽しむために〜ウェルシュ菌にご注意を〜」
・内閣府 食品安全委員会 ファクトシート「ウェルシュ菌食中毒」
・吹田市HP「食中毒を予防しましょう」